いそべ煎餅よもやま話

(2014年12月30日 柳生 聡)

▼磯部温泉の歩みとともに親しまれてきた銘菓『いそべ煎餅』
温泉街の一角の作業場兼店舗で、いまも昔ながらの製法を守っていそべ煎餅を焼いている『栄泉堂』(えいせんどう)社長の関口秀男さん(61)にお話を聞いた。

▼明治18年に高崎~横川間の鉄道(信越本線)が開通すると、東京からの湯治客や避暑客が磯部温泉に押し寄せ、ちょっとした温泉バブルになった。
標高200mあまりとはいえ、軽井沢が開発されるまでは別荘地としても栄えた。
伊藤博文や黒田清隆内閣で、外務・内務・大蔵大臣などを歴任した明治の元勲井上馨の別荘もあった。
「いそべ駅」は、当時群馬県で二番目に電報受発信器が設置された駅であるという理由もあった。

▼群馬県は古来から「小麦粉」文化の土地柄だった。
全国で2、3位にランクされる生産高を上げていた。
郷土料理も、うどん、お切り込み、焼きまんじゅうと枚挙にいとまがない。
いそべ煎餅は、小麦粉、砂糖(ざらめ)、植物油(菜種油)を使う。
中でも重曹の代わりに、温泉源泉からくみ上げる「鉱泉」を加えるのが特徴だ。
関口さんは職人歴40年の大ベテラン。三代目として21才からこの道一筋だ。

現在は火力にプロパンガスを使うが、60年前は炭火で焼いていたという。
その炉の名残りが、焼き台に残っているのが見て取れた。
川口市で作った型枠を大事に使用しているが、かつて当時の型枠が戦時の金属供出を命じられ、あやうく先代が隠して難を逃れたこともあったという。

P1040714  いそべ煎餅を焼く 栄泉堂 関口秀男さん

▼せんべいの種類は四角いオーソドックスなプレーン・タイプのほかに、味噌で風味を整えた半月状の「みそせん」もある。
近年、地元県立安中総合学園高校の食物コースの学生らとコラボして、「桑の葉入り いそべ煎餅」も考案され、世界遺産・富岡製糸場を視野に入れた商品展開にも乗り出している。
地元中学生らの見学やテレビ局の取材などもある。
関口さんは「喜んでもらえる。褒めてもらえるから、ここまでやってこられた」と笑みを浮かべた。

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※栄泉堂(安中市磯部1丁目13-8 Tel 027-385-6122) 12/6取材。

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